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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8423号 判決

原告

破産者日本建物

株式会社破産管財人

辻誠

右訴訟代理人

河合怜

外二名

被告

永代信用組合

右代表者

山屋八万雄

右訴訟代理人

岸巖

外三名

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録(四)ないし(六)記載の各建物につき、別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

二  被告は原告に対し、金三一八万二〇〇〇一円及びこれに対する昭和四七年一〇月一五日からその支払の済むまで年五分の割合よる金員の支払をせよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、主文第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

(一)  主位請求

1 主文第一項と同旨。

2 被告は原告に対し、金二二〇〇万円及びこれに対する昭和四七年一〇月一五日からその支払の済むまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(二)  副位請求

1 被告は原告に対し、別紙物件目録(四)・(五)記載の各建物についてそれぞれ別紙登記目録(一)3及び(二)4記載の各登記の否認登記手続をせよ。

2 被告は原告に対し、金二二〇〇万円の支払をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張する事実

一、請求の原因

(一)  主位請求の原因

1 訴外破産者日本建物株式会社(以下「日本建物」という。)は昭和四二年三月八日、被告と信用組合取引契約を締結し、同年五月三〇日、別紙物件目録(一)記載の土地につき、元本極度額を金一五〇〇万円とする根抵当権設定契約及び停止条件付代物弁済契約を締結し、右設定登記及び所有権移転仮登記をなした。

2 その後、日本建物が右(一)の土地上に鉄筋コンクリート五階建の建物(通称自由ケ丘第七コーポ)を建築し、借地権付マンシヨンとして分譲したため、被告は日本建物に対して担保の追加を要求し、日本建物はこれに応じて別紙物件目録(二)ないし(六)記載の各建物を担保として提供し、各建物について根抵当権設定登記及び条件付所有権移転仮登記((五)及び(六)については賃借権設定請求権仮登記も)をなした。

3 被告は昭和四五年八月六日、日本建物に対する残債権二六六五万八三二五円について、別紙物件目録(一)ないし(六)記載の物件を代物弁済として取得し、同月一二日及び一三日、右(一)ないし(四)の物件については仮登記の各本登記手続を、(五)の物件については所有権移転登記をなした。

4 昭和四六年一月二〇日、当裁判所で日本建物を破産者とする旨の宣告がなされ、原告がその破産管財人として選任された。

5 被告は同年五月から同年七月にかけて、別紙物件目録(三)記載の建物を合計金一九二五万円で第三者に売却処分し、同年七月一六日同(一)、(二)記載の土地建物及び同(六)記載の建物に対する担保権を一括して訴外相模建設株式会社(以下「相模建設」という。)へ金一四〇〇万円で売却した。

6 しかしながら別紙物件目録(一)・(二)記載の土地建物の時価は、被告が相模建設に売却した当時少なくとも合計金三四二〇万円である。即ち(一)の土地については、借地権が存するとしても金六五〇万円以上(借地権が存していないとすれば金三七三五万円以上)の価値を有するし、(二)の建物七戸についても、左記記載の通り、合計二七七〇万円の価値を有していたのである。

(二)1金五三〇万円、同2金七九〇万円、同3金二五〇万円、同4金三八〇万円、同5金二〇〇万円、同6金二五〇万円、同7金三七〇万円

7 よつて被告は物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物をいわゆる帰属清算型の代物弁済によつて取得したことで日本建物から少なくとも合計五三四五万円((一)の土地の評価を金三七三五万円とした場合は金八四三〇万円)の弁済を得たことになるが、日本建物の前記債務額二六六五万八三二五円を超える部分は清算金として原告に返還すべきであるから、原告は被告に対し、右清算金二六七九万一六七五円中二二〇〇万円及びこれに対する弁済期の後であることの明らかな本件訴状送達の日の翌日である昭和四七年一〇月一五日からその支払の済むまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、並びに別紙物件目録(四)ないし(六)記載の各建物については、前記のとおり日本建物の債務は計算上完済となるのに被告がこれらを取得するのは不当であるから、被担保債務消滅に基いて別紙登記目録記載の登記の各抹消登記手続を、それぞれ求める。

なお仮に被告が前記各土地建物を取得した代物弁済がいわゆる処分清算型のものであるとすると、被告は物件目録(一)及び(二)記載の土地建物を前記の通り、相模建設に金一四〇〇万円という不当に低い価格で処分したことにより、その適正価格である金三四二〇万円と日本建物の被担保債務の差額に相当する金額の損害を被つたことになる。而して日本建物の被告に対する債務二六六五万八三二五円のうち金一九二五万円については被告が物件目録(三)記載の建物を右金額で他に転売したことによつて弁済に充当されているので、残債務額は金七四〇万八三二五円となるから、前記適正価格三四二〇万円との差額二六七九万一六七五円が原告の被つた損害である。よつてこの場合には原告は被告に対し、右損害額の内金二二〇〇万円及びこれに対する損害発生の後であることの明らかな本件訴状送達の日の翌日である昭和四七年一〇月一五日からその支払の済むまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  副位請求の原因

1 ないし3〈省略〉

二、請求の原因に対する認否〈省略〉

三、抗弁

1  本件代物弁済はいわゆる流質型のものであるので、被告は清算義務を負わない。

2  仮に被告が処分清算義務を負うとしても、被告は日本建物に対して前記二六六五万八三二五円の債権の他に以下の通りの債権を有している。

① 右二六六五万八三二五円につき、昭和四六年九月三〇日までの日歩七銭の割合による約定遅延損害金 金六六〇万六四八〇円

② 物件の管理費用及び処分費用金二八〇万一一一九円

従つて被告は日本建物に対して以上合計三六〇六万五九二四円を請求し得るところ、被告が別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物を処分して得た金額合計三三二五万円はこれに満たず、その差額は被告の損失となつている。よつて被告に清算金を支払う義務はない。

四、抗弁に対する認否〈省略〉

第三  証拠〈省略〉

理由

一1  主位請求の原因第1項ないし第5項記載の事実については当事者間に争いがない。

そこで被告が日本建物から昭和四五年八月六日に別紙物件目録(一)ないし(六)記載の各土地建物を取得した代物弁済(以下「本件代物弁済」という。)の性質から検討するに、右代物弁済に停止条件を付した当初の契約(物件目録中(二)7を除くその余の各土地建物)又はその予約(同目録(二)7の建物)はすべて日本建物の被告に対する債務の担保のためになされたものであることは当事者間に争いがない。してみれば右の契約は被告が代物弁済の対象となつている土地建物の所有権を取得すること自体が主目的ではなく、当該土地建物が有している金銭的価値に着目してその価値の実現によつて被告の債権の満足を得ることがその本来の趣旨であると考えられるから、特段の事情のない限り、被告はいわゆる帰属清算又は処分清算の方式によつて目的物件を評価し、自己の債権の弁済に充てた後に剰余金があればこれを債務者に返還すべきものである。而して本件代物弁済の場合、これをいわゆる流質型のものとする旨の日本建物・被告間の特別の合意のあつたこと及びこれを合理的ならしめる諸般の事情を認めるに足りる証拠は何ら存しない(却つて日本建物及び被告の双方とも被告の清算を前提として行動していたことは後に認定する通りである)。従つて被告は本件代物弁済につき、原告に対する清算義務を免れない。〈証拠判断省略〉

2  そこで本件代物弁済が帰属清算型であつたのかそれとも処分清算型であつたのかという点の判断に進むこととする。当初の停止条件付代物弁済契約及び代物弁済予約締結の段階における日本建物及び被告の合意の内容を直接認定できる証拠はないが、〈証拠〉によれば、被告は本件代物弁済によつて別紙物件目録記載の各土地建物の所有権を取得(但しこの「取得」の内容については後述する(四2)。)した後も日本建物に対する帳簿上の貸金勘定を継続し、他方右の土地建物を直ちに不動産勘定に繰入れることなく、個々に他に処分してその代金をもつて日本建物に対する債権の弁済に充て、剰余金があればこれは日本建物に返還する意思で本件代物弁済後の処理を図つていたこと及び前記の通り日本建物の従業員であつた野村源一郎が本件代物弁済の後に一時被告の委任を受けて別紙物件目録の土地建物を他に処分し、その換価金をもつて日本建物の被告に対する債務の弁済に充てようとして奔走したことを認めることができ、右事実からすれば、当初の停止条件付代物弁済契約及び代物弁済予約の段階において、日本建物及び被告の双方とも、日本建物の債務不履行の際には処分清算の形によつて日本建物の被告に対する債務を清算する意思であつたと推認することができ、これに反する証拠はない。従つて以下においてはこれを前提として論じる。

二被告が本件代物弁済によつて別紙物件目録記載の土地建物を取得する直前の被告の日本建物に対する残債権が金二六六五万八三二五円であつたことについては当事者間に争いがない。そこで次に被告が本件代物弁済によつて取得した右土地建物を他に処分することによつて日本建物の債務の弁済に充てるべき金額としてどれほどの収益を挙げることができたかという点について検討し、これを右債権額と比較してみなければならない。

1  まず被告が昭和四六年五月から七月にかけて、別紙物件目録(三)記載の各建物を代金合計一九二五万円で他に売却したことについては当事者間に争いがない。従つて被告は右処分によつて、日本建物の債務の弁済に充てるべき換価金一九二五万円を得たことは明らかである。

2  次に被告が同年七月一六日、別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地建物の所有権並びに同目録(六)記載の建物に対する担保権を一括して訴外相模建設に金一四〇〇万円で処分したことについても当事者間に争いがない。ここで原告は右目録(一)及び(二)記載の土地建物は少くとも合計三四二〇万円の価値を有しており、被告はこれを右価額で処分すべき義務があつたと主張するので、右土地建物が右処分当時有していた価値について検討することとする。

(一)(1)  まず物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)から判断する。〈証拠〉によれば、本件土地は被告への担保に供された当初は更地であつたが、その後日本建物は本件土地上に五階建の区分所有建物(通称「自由ケ丘第七コーポ」)を建設して一般に分譲した事実が認められる。従つて本件土地の価格は更地の場合よりも相当程度に下落していたことは明らかである。〈証拠〉によれば本件土地には右建物のための借地権は設定されていないことが認められるから、右建物は言わば不法に本件土地を占有していることになり、正当な権原を有しないものとして、借地権を設定した場合程に地価が下落することはないという前記野村証人の供述も一応はもつともである。

しかしながら、土地上に堅固な建物があり、これがいわゆるマンシヨンであつて多数の居住者がある場合には、これら居住者に建物からの退去又はその収去を求め、土地を更地に戻すには相当の経費及び時間がかかるものというべきであるから、かかる土地が実際の取引上有し得る価値としては借地権が設定されている土地程度に下落することもあり得るであろうし、また本件土地の場合においては時価が借地権設定の場合を上回る度合を決するに足りる証拠はないので、結局これを借地権が設定された場合の底地価格と同視し、その価格を検討するほかはないものと考えられる。

(2)  そこで本件土地の昭和四六年七月当時の底地価格を判断するに、前記甲第一号証の一(不動産鑑定士倉橋総八作成の価格調査結果報告書)はこれを金六五〇万円(但し価格時点は昭和四七年六月)とし、成立に争いのない乙第一号証(不動産鑑定士深田敬一郎作成の不動産鑑定評価書)はこれを金五七一万六〇〇〇円としている。原告の主張は専ら右倉橋報告書に基くものであるが、右二者の価格評価の相違は要するにいわゆる収益還元法における利回りを五パーセントとするか(乙第一号証)四パーセントとするか(甲第一号証)という一点にあるところ、証人倉橋総八及び同深田敬一郎の各証言によつても五パーセントの利回りを不当と断ずるに足りる事実は見出し得ないし、また昭和四六年七月から前記倉橋報告書が価格時点とした昭和四七年六月までの間に地価の上昇がなかつたと考えることもできない。更に右倉橋報告書は底地割合方式による試算として金一一三四万一〇〇〇円という価格を提示しているが、これは右報告書自体市場性に乏しいものとして単なる試算であることを断つているだけでなく、証人倉橋総八の証言によればその計算の基礎となつた資料は十分な裏付を欠くものであつたことが認められるから、これもまた到底採り得ないものである。以上によれば、結局昭和四七年七月における本件土地の確実な底地価格としては、前記深田鑑定書の示す金五七一万六〇〇〇円を下回ることはないとすべきであるが、またこれを上回るものであるとするに足りる証拠もないとせねばならない。従つて当裁判所は本件土地の当時の価格として右の金五七一万六〇〇〇円を採用する。〈証拠判断省略〉

(二)(1)  次に同目録(二)記載の各建物について判断する。証人倉橋総八の証言によつて成立の認められる甲第一号証の二ないし五(いずれも不動産鑑定士倉橋総八作成の価格調査結果報告書)は右建物の時価合計(但し価格時点は昭和四七年五月)を金二七七〇万円と評価しており、原告の主張は専ら右報告に依拠するものである。しかしながら右各報告の内容はいずれも同類型不動産の取引事例に基き、個別的要因の比較を行つたとありながら、証人倉橋総八の証言によれば、右取引事例の調査は十分なものであつたとは言えないこと、建物の内部を実際には見られなかつたため、外観だけの調査で済ませたものがあつたこと(建物内部の検分が十分なものでなかつたらしいことは右各報告書中建物内部についての粗略と言える程簡単な記述からも窺えるのであるが、右報告書総てに何と「外観調査」の但し書が添えられているのである。)、物件目録(二)の3・4の各建物については資料の不足からその名称すら「参考価格」とせざるを得なかつたこと、報告を特に急いだためその内容を詳しいものにはできなかつたこと等の事情があつたことが認められるから、市場性を考えて修理見込費用以上の減価を行つてあるとか、評価は低く押えがちだから実際にはこれ以上の金額で売買されるものであるとかの同証人の供述にも拘らず、前記調査(参考)価格は前記建物の当時の時価としてそのまま採用することのできないものであることは明らかである。

また前記乙第一号証によつて右各建物の鑑定評価額を見ると、合計二〇二一万五〇〇〇円となるが、この評価額は各建物について抽象的な再調達価格を想定し、これに時点修正を加えただけのものであるから、これまたたやすく採用することのできないものであると言えよう。

(2)  〈証拠〉によれば、被告が物件目録(二)記載の各建物を相模建設に売却した時の右建物の状況は以下の通りであつたことを認めることができる。

(イ) 右建物はいずれも手抜工事が目立つて内装関係の痛みが甚だしく、蒸気パイプ破裂による内部腐食(物件目録(二)1)、外部からの泥の流入(同1・6)、床・天井落ち(同1・5・6)、水道の破損(同3)、漏水(同2・7)等の欠陥があつたほか、建具・畳等の痛みも進んでおり、居住者がいたために比較的状態のよかつたもの(同4・5・7)を含めて、商品化するためには内装工事を根本的にやり直さなければならない状態であつた。

(ロ) 同目録(二)4、同5及び同7の建物にはそれぞれ訴外小寺某、同保科某及び同古川某が居住していた。従つて建物の価値としては当然下がつていたし、右建物を改装の上、他に転売するためにはその明渡を求めなければならないという状態であつた。

しかしながら更に〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。〈証拠判断省略〉。

(ハ) 物件目録(二)記載の各建物は損壊が激しいといつても、いずれも内装だけの痛みであるから、修理費用として必要なのは一戸当り金七〇万円ないし金八〇万円であり、修理後は同目録(二)1・2の建物は一戸当り金三〇〇万円ないし金四〇〇万円で、同目録(二)のその余の建物は一戸当り金二五〇万円ないし金三〇〇万円で販売できると同人は見込んでいた。

また前記三名の居住者のうち、正当な占有権原を有しているのは保科だけであり、小寺は日本建物の従業員であること及び古川は同人の本来の区分所有建物に雨漏りがあるために一時的に前記建物(物件目録(二)7)に居住しているものであることから、右両名については、比較的容易に建物の明渡が得られる筈であつた。

また〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

(ニ) 原告は日本建物の保有していたその余の建物を破産手続内で他に次々と処分してきたのであるが、その中には日本建物の粗雑な工事のために内部が相当損壊しているものもあつた。しかしながら(不動産の価格が相当に上昇しつつあつたと考えられる昭和四七年以降に処分したものはさておき)昭和四六年の段階においても、現状有姿のままという約定で、麻布第二コーポ内の建物を一平方メートル当り金一〇万円余で、日吉第二コーポ内の建物を一平方メートル当り金八万五〇〇〇円余で処分することができた。右の麻布第二コーポとは即ち、別紙物件目録(二)1・2記載の建物の属する集合棟にほかならない。

(ホ) 因みに被告が別紙物件目録(三)記載の各建物を別表(一)記載の価格で他に転売したことについては、当事者間に争いがない。右建物の一平方メートル当りの単価を計算してみると、金八万七〇〇〇円余(日吉第二コーポ)ないし金一二万八〇〇〇円余(原宿コーポ)となる。もつともこの点につき、証人村山壹成は、右四戸の建物は内装の痛みが比較的軽微であつたと供述している。

(3)  そこで以上(イ)ないし(ホ)記載の事実を勘案しつつ改めて別紙物件目録(二)記載の各建物の当時の価格について検討してみることとする。

前記(ニ)・(ホ)記載の事実を前提として、物件目録(二)記載の各建物につき、1及び2の建物(麻布第二コーポ内)については一平方メートル当り金一〇万円、その余の各建物(日吉第三、第五、第七コーポ内)については一平方メートル当り金八万五〇〇〇円の価値を有していたものと仮定すると、以下の通りの数字を得ることができる。

1 金五〇三万七〇〇〇円、2 金六五八万九〇〇〇円、3 金二一一万二二五〇円、4 金二九九万二〇〇〇円、5 金二三一万二〇〇〇円、6 金二九二万四〇〇〇円、7 金三〇二万〇〇五〇円、以上合計二四九八万六三〇〇円

これは右数字の基礎となつた前記(ニ)及び(ホ)の各事例が僅少である上、その建物の処分時の状況が必ずしも明らかではないので、直ちに右金額をもつて当時の価格であるとすることはできないが、前記各建物は補修前でも右記載の価値を持ち得る可能性があつたと考えることができるのである。

(4)  結局以上に詳述した諸点を総合すると、前記乙第一号証も一応の根拠は有しているわけであるから、物件目録(二)記載の各建物の価格の合計が右乙第一号証から得られる金額(合計二〇二一万五〇〇〇円)を上回るとすることは難しいとしなければならないが、建物内部の痛み具合の程度如何によつては前記の通り金二四九八万円余の価値を有していたとすることもできるのであるから、右二〇二一万円余の金額から更に建物補修に要する費用を控除するなどこれを更に下回るとするのは相当でない。〈証拠判断省略〉そこで、むしろこの金二〇二一万五〇〇〇円を以て前記各建物のいわゆる明渡価格の合計額とするのが妥当であると考えられる。

(5)  次に右建物のうち三戸に居住者がいたことは前記認定の通りであるから、その分については建物の価値が下落していたことは明らかであるが、その下落分は居住者から建物の明渡を得るために必要な費用とほぼ等しいと見ることができる。而してその費用については、〈証拠〉によつて、被告から右各建物を譲受けた相模建設が立退費用として居住者に支払つた金額が保科について金九五万円、小寺について金四〇万円、古川について約五〇万円であつたことを認めることができるので、これを参酌し、三人の居住者中、正当な占有権原を有していた物件目録(二)3の保科については金一〇〇万円、正当な占有権原を有していなかつた同目録(二)4の小寺及び同(二)7の古川については各金五〇万円と想定するのが相当である(これは右建物を被告から譲り受ける際の危険負担を見込んだ抽象的な価格下落分であるから、実際の買受人となつた相模建設が居住者らに現実に支払つた金額がこれを下回つていることは右想定上の支障となるものではない)。

3(一)  そうすると物件目録(二)記載の建物の当時の価値は合計金一八二一万五〇〇〇円となり、本件土地の当時の価値を加えると、その合計は金二三九三万一〇〇〇円となる。もとより特定の不動産の過去の一定の時点における時価を現在の資料によつて復元しようとするのであるから、正確な数値を求めるのは不可能であり、証拠上できる限りこれに近いと考えられる数字を得て満足すべきものであるのは巳むを得ないところである。

ところで被告は別紙物件目録記載の全土地建物を本件代物弁済によつて取得したのであるが、右代物弁済は前示認定の通り処分清算型のものであつたから、被告は日本建物に対し、右の土地を他に処分してその換価金をもつて日本建物の債務を精算する義務を負つていたものである。而して右義務を履行するにあたつてはその本旨に従つて誠実にこれをなすことを要するのであつて、自己の債権の回収のみに走つて不当に低廉な価格で乱売し、債務者に損害を被らせるようなことがあれば、債務者に対する清算義務の不履行として損害賠償義務を免れないものと言わなければならない。帰属清算型代物弁済において目的不動産を債権者が自己所有に帰せしめるには適正価格をもつてなすべきであるのと同様、処分清算型代物弁済において目的不動産を他に処分するにあたつては客観的に相当な価格をもつてなすことを要するのである。

(二) 従つて被告が物件目録(一)・(二)記載の土地建物を他に処分するにあたつては、その当時の時価合計が前記の通り金二三九三万一〇〇〇円であつたのであるから、その処分価格もこれと比較して相応な価格でなければならない。しかしながら時価二三〇〇万円余の不動産が直ちにその金額をもつて処分できるとは限らないことは明らかであり、殊に物件目録(二)記載の各建物の如く内装の痛みが激しい場合には外観上明白な欠陥として商取引上甚だ不利であり、現実の修理費相当分以上の減価をせざるを得ない場合のあることも十分考えられる。殊にこのように相当の補修を要する物件を処分しようとする場合には、その買手も補修の能力を有する者等自ら範囲が限られてくる(もとより債権者にかかる建物を補修した後に処分すべき義務はない。)し、また処分の時期についても、いわゆる売り急ぎをするため更に価格低落を招く結果となることもある程度避けられないところであろう。

本件の場合においても、〈証拠〉によれば、被告が昭和四五年八月、本件代物弁済によつて別紙物件目録記載の土地建物を取得した後、これを他に処分して日本建物に対する債権の弁済を得ようとし、右の全土地建物についてとりあえず合計三五〇〇万円という価格を設定して諸方面に交渉し、殊に一時被告から個人的に処分の委任を受けた前記野村も相当に奔走したが、遂に価格の点で折合いをつけることができず、昭和四六年三月頃までには前記物件を一括して売却することはできないままであつたことが認められるのである。

従つて物件目録(一)・(二)記載の土地建物についても、被告の処分価格が当時の時価の前記二三九三万一〇〇〇円を下回つた場合においても、その差額を直ちに被告の清算義務の不履行によつて原告に生じた損害とすることは相当でないのであつて、多少の減額は巳むを得ないものであるとしなければならない。而してその減額の割合については、これまでに詳述した諸事情を総合勘案し、これを全体の五分の一、即ち二割とするのが妥当である。

(三)  よつて被告は昭和四六年七月当時、前記清算義務の内容として物件目録(一)・(二)記載の土地建物を少なくとも合計一九一四万四八〇〇円(二割減の価格)で処分すべき義務があつたものと言うことができる。しかるに被告の現実の処分額が物件目録(六)記載の建物に対する担保権を含めて合計一四〇〇万円であつたことは前記の通りである。してみれば被告は物件目録(一)・(二)記載の土地建物によつて日本建物の債務の弁済に充てるべき換価金として少なくとも一九一四万四八〇〇円を収得すべきであつたにも拘らず、右義務に背いて(物件目録(六)記載の建物に対する担保権を含めて)これを金一四〇〇万円で処分したのであり、その差額は債務者である日本建物の損害となつたものと言うべきである。従つて日本建物及び原告は被告に対し、その損害の填補の請求をなし得べきもの、即ち被告は物件目録(一)・(二)記載の土地建物の処分によつて、(現実の処分額に拘らず)債務の弁済に充てるべき換価金として前記一九一四万四八〇〇円を収め得べかりしものと主張することができる。〈証拠判断省略〉

4  被告が昭和四六年五月頃から七月頃にかけて、別紙物件目録(三)記載の各建物を合計一九二五万円で処分したことは当事者間に争いがないのであるから、これに前記一九一四万四八〇〇円を加算すると、結局被告は同目録(一)ないし(三)の土地建物の処分によつて日本建物から合計三八三九万四八〇〇円の弁済を得たとすべきことになる。

三本件代物弁済当時の日本建物の被告に対する残債務が合計二六六五万八三二五円であつたことは前記の通りである。そこで前記弁済額との間で清算をなすためには更に被告に要した処分費用及び完済までの遅延損害金を明らかにしなければならない。

1  まず処分費用から検討するに、〈証拠〉によれば、被告は別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物を他に処分する費用として合計二〇八万三〇八六円を要した事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  次に日本建物の被告に対する残債務の遅延損害金について検討するに、本件代物弁済時、日本建物の残債務が金二六六五万八三二五円であつたことについては既に述べたが、弁論の全趣旨によれば、日本建物・被告間の遅延損害金の約定は日歩七銭であつたことが認められる。ここで〈証拠〉によれば、被告が別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物を処分することによつて得た日本建物の債務の弁済の状況は別表(二)記載の通りであることが認められるから、これに従つて日本建物の遅延損害金を計算すると、別表(三)記載の通り、昭和四六年九月三〇日まででその合計は金六四七万一三八八円となる。

3  結局以上を総合すると、被告は別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物を処分することによつて日本建物の債務の弁済に充てるべき換価金として金三八三九万四八〇〇円を取得し得たものとすべきであり、他方日本建物が被告に支払うべき債務及び処分費用は合計三五二二一万二七九九円となるから、前記金額からこれを控除すると、被告が日本建物、ひいては原告に返還すべき清算金は金三一八万二〇〇一円となる筋合である。

四1  次に原告の被告に対する別紙物件目録(四)ないし(六)記載の各建物に対する移転登記等の抹消登記手続請求について判断する。

日本建物の被告に対する債務が、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物の処分によつて計算上既に完済となつていることは前示の通りである。してみれば被告が同目録(四)ないし(六)記載の各建物の保有を続ける理由はないものと言わなければならない。

もつとも〈証拠〉によれば、日本建物・被告間において同目録(四)・(五)記載の各建物については、日本建物がその債務を完済した場合にはこれを返還する旨の合意ができていたことが認められるばかりでなく、被告としても不動産を取得するのが主目的ではないとして、同目録記載の全土地建物を一応本件代物弁済によつて取得した後もこれを不動産勘定に繰入れず、債権の回収を図つていたことは前示(第一項)の通りであるので、既にこの点からも、被告が全債権の弁済を得た後は残余の担保不動産はこれを債務者に返還すべきものとして原告の前記抹消登記請求に応ずべきものであると言うこともできよう。

2  しかしながら右の結論は、前記のような当事者間の合意等の有無に拘らず、専ら債権の担保としての処分清算型代物弁済の本質から導き得るものである。即ち処分清算型の代物弁済の合意がなされている本件の場合において、債務者たる日本建物に債務不履行があり、債権者たる被告が一部の物件(物件目録(二)7)については代物弁済予約完結の意思表示をなし、その余の物件については停止条件が成就したのであるが、その担保たる性質からこれによつて直ちに債権者たる被告に被担保物件の完全な所有権が移転するのではなく、被告が取得するのは、自己の債権の弁済を得るために目的物件を第三者に換価処分できるという処分権能にとどまるものと解されるのである。被告は別紙物件目録記載の全土地建物について右の処分権能を取得したのであるから、右目録中の不動産を如何なる順序によつて処分するかということは全く被告の任意である。しかしながら被告が右不動産中の一部を処分することによつてその処分費用を含めた債権額の全部を償うに足る換価金を収めたときには被告の債権は満足を得て当然消滅するのであるから、形式上は被告の下にとどまつているその余の不動産に対する前記のような処分権能も同様に消滅することは、そもそも債権の担保のためになされたという本来の性質からも明らかであると言わなければならない。従つてこの場合には債務者はかかる不動産に対する本来の全き所有権を回復できるのであり、これに対して債権者の有している代物弁済関係の仮登記、或いはその代物弁済を原因とする所有権移転登記については、債務者は回復した右所有権に基いてその抹消を請求できる筋合となるのである。

従つて原告が被告に対し、別紙物件目録(四)ないし(六)の各建物について、被担保債務の消滅を理由として別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続を求める請求は理由がある。

五以上の事実及び判断によれば原告の本訴請求は、その余の判断に及ぶまでもなく(念の為一言するに、破産法上の否認権行使に基く原告の副位請求は、別紙物件目録(四)ないし(六)については、右の通り主位請求の認容される以上、これを判断すべき余地がないし、同(一)ないし(三)の物件に相当する価額返還については、第三節までの議論と同旨に帰することが明らかであるから、改めて判示しない。)、清算金三一八万二〇〇一円及びこれに対する弁済期の後であることの明らかな本件訴状送達の日の翌日である昭和四七年一〇月一五日からその支払の済むまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに別紙物件目録(四)ないし(六)記載の各建物について別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続を求める限度で理由があるからこれらを正当として認容し、その余は理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言については同法第一九六条第一項を各適用することとして、主文の通り判決する次第である。

(倉田卓次 井筒宏成 西野喜一)

物件目録、登記目録、別表(一)ないし(三)〈省略〉

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